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皇帝の憂鬱 [フィクション]

皇帝は倦んでいた。

この国を襲った内乱は10年以上前に平定された。
また、優秀な軍人たちは内乱平定の余勢を駆って、
周辺の夷荻の討伐にも成功した。

国内外の平和は、経済の活性化をもたらし、
民の暮らしは年を経るごとに豊かになっていった。

試験で厳選された清廉にして優秀な官吏たちは、
治安維持や経済の秩序の確保にそのもてる力を存分に発揮し、
無能な者や不正を犯した者は速やかに失脚した。

こうして、皇帝はただ、政権安定の象徴となった。

彼は自由にして万能であったが、
ただ一つ、彼に不自由なことがあったとすれば、
自ら死を選ぶことであった。

彼にはまだ子供がいなかった。
また、後継者と目される重臣もいなかった。
後継者のいない皇帝の死は、政権の不安定につながり、
最悪の場合には、血で血を洗う内乱が再発する。

だから彼は死んではならない。

こうして、皇帝は、自ら死を選ぶ以外、
この世界のあらゆる楽しみを享受し尽くした。

だから、皇帝は倦んでいた。

そんな皇帝を心から不憫に感じている者がいた。
彼の寵姫であった。
寵姫は夜な夜な、皇帝の倦んでいるさまを、
枕元で聞かされてきた。
愛する皇帝のため、彼女は、一計を案じることにした。

寵姫は、叔父である将軍に相談をもちかけた。
皇帝の気晴らしを兼ね、名山で、
大々的な祭祀を執り行ってはどうか、と。

将軍は、最初乗り気ではなかったが、
武勲を立てられないこの平和な時勢で、
自分の得点稼ぎができると計算し、寵姫の勧めに従った。

喉から手が出るほど気晴らしのほしい皇帝は、
将軍の奏上を認め、
祭祀は執り行われることとなった。

祭祀の日は、素晴らしく晴れた。
新緑の季節、山は青々しく輝いていた。

名山のいただきに高くしつらえられた祭壇は美々しく飾られた。
後宮の美女たちは、天女をあしらって色とりどりに装い、
祭壇の隅で出番を待った。もちろん、寵姫はその先頭。

やがて、重々しい音曲とともに、皇帝が祭壇に登ってきた。
皇帝は、最上級の礼装に身を包み、
その絢爛さは後宮の美女たちを集めたものに勝るほど。

祭祀が始まった。

皇帝は祭壇の端の台に上がり神々たちに祈りをささげ、
後宮の美女たちは、その後ろを歌い踊った。

皇帝の祈りの声が最高潮に達するとき、
後ろの美女たちの舞踊の隊列が乱れた。

寵姫がまっすぐ皇帝に向かって走り出したのだ。
寵姫は、そのまま皇帝に突進し、体当たりした。

皇帝は、大きくよろめき、たたらを踏みつつ、
やがて、絢爛な礼装をはためかせながら、
名山の谷底へ落ちていった。

そのすぐ後を、寵姫が、まるで飛べない天女のように、
ひらひらと谷底へ落ちていった。

祭祀に居合わせた下々の者は、そのとき、
これまで聞いたこともないほどの皇帝の笑い声を聞いた。

『冒険者』の『酒場』 [フィクション]

『酒場』でカウンターの隅に腰掛けながら、
俺は、若い連中のやりとりを見ていた。
何やら、『おやじ』ともめているらしい。

どうせ、
『酒場』の『おやじ』から紹介された仕事の、
割りが悪いって話だろう。

『勇者』じゃあるめいし、
仕事をもらえるだけありがたいと思え。
俺は連中に聞こえないよう、
小さな声で毒づく。

『冒険者』になったからって、
すぐにでも『勇者』になれるわけじゃない。
『勇者』になって富と名声を手に入れるヤツなんて、
ほんの一握りだ。
小さな仕事を通じて金を貯め、『技』を磨き、
少しずつ、大きな仕事をする力を蓄える。

後は、
いつくるか知れないチャンスを、
じっと伺うっていう仕組み。

つまりは運次第なのだ。

だが大方は、日銭稼ぎの小さなに汲々として、
あっという間に年をとってしまう。
俺はしわだらけになった自分の手を、
じっと見つめた。

俺には、日銭稼ぎの仕事すら、
しばらく回ってきていない。
『勇者』どころか、生きるのもカツカツだ。

俺はコップになみなみつがれていた、
安酒をあおった。
頭の中が回り始め、
いろんな記憶が入れ替わり立ち替わり。

いつしか俺は、まだ若かった時代、
『酒場』や『冒険者』という言葉がなかった、
遠い昔を思い出そうとしていた。

その頃は、
『冒険者』のことを『フリーター』といい、
『勇者』のことを『勝ち組』とかいい、
『酒場』のことを『ハローワーク』と言ってたっけ。

そんな言葉が一瞬脳裏をかすめたが、
俺は眠くなってカウンターに突っ伏してしまう。

芋坊の話 [フィクション]

ある村のはずれの小屋に、不具の男の子が一人住んでいた。

不具の子は、言葉を話せず、手足が動かず、這い回ること
しかできず、いつのころからか、「芋坊」と呼ばれていた。

そんな芋坊を、村の人々はみんなで可愛がっていた。
食べ物を差し入れたり、歌を聴かせたり、祭りのときは、
村の皆で芋坊を抱えて、踊りを見せてやったりしていた。

その代わり、村の男や女は、困ったことがあると、芋坊の小屋に
行ってひとしきり話をしては、さっぱりして家に帰ったものだった。

そんな芋坊は、いつも春先と秋口になると、とても悲しく
なった。村のみんなが田植えや稲刈りをするのに、自分だけ、
働くことができない。自分だけ、働かずに、ご飯をもらって
いることを、芋坊は密かに深く深く恥じていた。

あるとき、芋坊が昼寝をしていると、お地蔵様が現れた。

「おい、芋坊。お前は心が綺麗だから、願いを一つ叶えてやろう」。

芋坊は這いずりながら思った。

(おらに動ける手足をくだせえ)

お地蔵様は頷くと、どこかに消えた。

目が覚めると、芋坊は、立って歩けるようになっていた。
小屋を出て、村長に手を振った。はじめはたまげていた村長だが、
それが芋坊だと気づくと、とても喜んだ。

芋坊はそれからとてもとても良く働いた。泥にまみれて汗を流す芋坊に、
村の娘っ子や嫁っ子たちは、いつしか見惚れるようになった。

ある夜、村長の後妻が芋坊の小屋に忍んできた。芋坊は何が何だか
分からなかったが、次の日、村長の家で物音がしたと思うと、さんざんに
打たれた後妻が走って村を逃げ出してしまっていた。

それから、段々と村人達が、顔を合わせば、お互いに罵るようになった。
罵りあわなくても、むっつりだまり合っていることが多くなった。
祭りも、行われなくなった。

芋坊はただ、働くことが楽しかった。

村長と村の男衆は、芋坊を除いて、三日三晩話し合った。その日の
夕暮れ、村主と、村の屈強な男達が、芋坊の小屋にいった。そして
芋坊を囲んで皆で土下座して泣きながら言った。

「芋坊、みんなのために芋坊にもどってくんろ」

芋坊は、男達の様子がただならぬことを感じ、小さく頷いた。

その刹那、男達は芋坊に跳びかかり、芋坊の手足を折った。
芋坊は痛くて痛くてたまらなかったが、「みんなのため」と
思うと、歯を食いしばって耐えた。

芋坊は、「芋坊」に戻った。

村人たちは、一生懸命芋坊の看病をした。そして、昔のとおり、
食べ物をあげたり歌を歌ってあげたりした。祭りも、また行われる
ようになった。

村が、かつての村に戻っていったとさ。

めでたしめでたし。

恵比寿様の釣果 [フィクション]

男は公園のベンチに座り、頭を抱え、うつむいていた。

会社で左遷され、自棄酒を飲み過ぎ、借金を抱え、身体も壊し、
会社にもいけない。当然、結婚など、夢のまた夢。

放課後の子どもたちの歓声も、その母親たちの白い目も、
もはや眼中に無い。

(どうしたらいいんだ・・・)

男は俯いて頭を抱えたまま、深い深い溜息を一つついた。

そんな様子を、天界から興味深そうにお釈迦様が見ていた。

(はて、どこかで見たことがあるはずだが・・・)

閻魔帳を開くと、果たして、男は千年ほど前の前世、網にかかった
鮒の子どもを一尾、逃がしてやったことがあるようだ。

慈悲深き惻隠の情が動き、お釈迦様は恵比寿様を呼んだ。

「お釈迦様、何かご用ですか?」

「ええ、下界のあの男をみてください」

「おやおや、不景気そうな様子ですね」

「そうなんです。でも、彼奴は以前かくかくしかじかで・・・、
 救ってやろうと思います」

「それはお情け深い。で、私はどうすれば?」

「ええ、とりあえず、彼奴と話をしてみたいので、あなたの
 釣竿で、彼奴をひょいと釣り上げてもらえませんか?」

「お安いご用です!」

男の目の前に、細い糸と釣針が、するすると下がってきた。
糸の元は、雲ひとつ無い青空に消えている。

釣針が目の前に来たところで、天から大きな声が聞こえてきた。

『おーい、男よ~い!わしは恵比寿だ~』

男は驚いて周りを見回したが、誰も反応はない。

『お釈迦様のお情けだ~。天界に招いてやるぞーい!』

男はまた周りを見回すも、誰も反応はない。

『おい、男、お前じゃお前。その糸の先の釣針に、身体を引っ掛けろ~』

男は頭を振り、糸を引っ張ったり、両手でちぎろうとした。
糸は細かったが、しかし千切れない。

(こいつは丈夫な糸だな・・・それなら・・・ちょうどいい)

天からは、男にしか聞こえないらしい声がまた、

『おーい、早くせんか~!お釈迦様がお待ちだ~』

しばらくすると、天界の恵比寿様の竿に、手応えが来た。

糸を手繰ると、青空の中から少しずつ、男と思しき黒い影が
姿を現す。だんだんと形が鮮明になる。

しかし、

「ありゃりゃ、こりゃ駄目だ!」

恵比寿様は糸の先にぶら下がったものを見て言った。

「身体を引っ掛けろというたに、自分で首に糸を巻きつけとる。
 これでは天界じゃなくて地獄に行ってしまうで。なあ、お釈迦様。
 せっかく助けようとしたのに・・・」

「よいのです。恵比寿よ・・・」

お釈迦様は、悲しそうなお顔で、首を左右にお振りになった。

死神さんこんにちは [フィクション]

ある、会社をさぼった日。

狭い部屋の湿った平たい布団でくの字になって不貞寝していると、
死神がいた。初対面だったが、昔絵物語で見たとおりだ。

聞いてみると、魂のノルマが集まらなくて、なかなか大変らしい。
ちょっと休憩しているとのこと。

まだ死ぬには早いとも思ったが、地獄に連れてってもらうのも一興だ。
痛かろうが苦しかろうが、無聊は紛れる。

で、死神に頼んでみた。

「俺を地獄に連れて行ってくれないか?」

「地獄は悪人の行くところだが、お前にその資格があるかな?」

「極悪人というほどではないが、悪人くらいなら、大丈夫じゃないか?」

「わかった。調べてみよう・・・」

空中に大きなモニターが現れ、俺の生涯が流れる。

幼稚園のころの兄弟へのささやかなウソ、親をだましてくすねた小遣い、
友人への裏切り、恋人への不実・・・。

他人のささやかな愛情と犠牲を踏み台にして生きてきた姿。

確かに、犯罪や大きな悪には手を染めてこなかったのだろうが、
これはこれでなかなかに楽しい。自分であるという一点を除けば。

モニターの中の自分が大人になり、そして現在のものとなった。
終わったらしい。

「どうだね?資格はありそうかい?」

「まあ、大物ではないが、十分だ。ありがたい。では・・・」

死神が大仰なしぐさを取り始める。魂を抜きにかかったのか。
しばらくそのしぐさが続くが、どうも様子がおかしい。

「どうした?死神」

「だめだ。うまくいかない・・・」

死神は空中からタブレット端末のようなものを取り出し、
なにやら検索を始める。そして、

「ああ、お前はだめだ・・・。ちくしょう・・・」

「なぜ?」

「当局によれば、うだつのあがらないこの生そのものが、
 お前の『地獄』だとさ・・・」

Deathofgod20070103.png

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