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ある妾の繰り言 [フィクション]

宮殿の地下牢の奥からは、ときおり、
不気味なうなり声に似た音が聞こえてくる。


・・・風?

少しだけ、空気が揺らいだような気がしたのだけれど。
どなたか、いらっしゃったのかしら。
それとも、お食事が届いたのかしら。

まあ、いいわ。それにしても。

ああ、もういったいどのくらいのときが経ったことでしょう。
わたくしが、このようなあさましい姿になり果ててから。

陛下がおかくれになって、その喪が明けるか、明けないか。
わたくしがまだ、陛下の悲しみに浸っていたかったとき、
突然、あの女に召し出されたのです。

豚のように肥えた、そのときもう皇后ではなく、
皇太后と呼ばれていたあの女は、
わたくしにこう言いました。

『おまえはこれから、生きながら豚となるのです』

それから、
わたくしは、まず、手と足をそれぞれ、
のこぎりで切られました。

次に、耳をそがれ、鼻をそがれました。
それから、声帯を焼かれ、
最後に、両目をくり抜かれました。

そして、この、湿った穴蔵に押し込められたのです。

こんな姿になって、死ぬことすらもできず、
ただ生きながらえてしまって。
恐れ多きことながら、黄泉路へ旅立たれた陛下を、
うらやましく思ったものです。

ああ、陛下。

わたくしは陛下を心から愛しておりました。
陛下のたくましい腕で毎夜抱かれていたあのころ、
わたくしは、本当に幸せでした。
皇后や他の妻たちの嫉妬など、何するものでしょう。

陛下は、わたくしにとって神のようなお方でした。
百万人の軍隊を指揮して天下を統一された武将として、
混迷のこの国に秩序をもたらした政治家として。

そんな陛下でも死の病にお倒れになったのです。
わたくしは、陛下の身体が日々痩せ細っていく様を、
文字通り、肌で感じておりました。

ただ、衰えていく陛下をお慰めすることしか、
わたくしにはできませんでした。

おかくれになる何日か前、陛下は、私の手を握りながら、
こんなことをつぶやいておられました。

『朕は、本当は皇帝になどなりたくなかった。
 市井に隠れて、好きな詩を詠みながら、
 暮らしたかった。あの皇后がいなければ、
 おそらく、そう暮らしていただろう。
 だから、あの女を近づけたくないのだ。』

お戯れかと思いましたが、陛下のまなざしは、
とても真剣でございました。

今になって、わたくしは、
陛下のあのお言葉が身にしみるのです。

そう。

はからずも皇帝の座に登りつめてしまった陛下、
陛下のお心をつなぎ止められなかった皇后、
そして、こんな姿になってしまったこのわたくし。

人は、なぜこうも、心かなわぬものなのでしょう。

あら、忘れておりました。
わたくしは、人ではなく豚にされてしまったのですわ。
人間のことを考えるなど、
おこがましいにもほどがありますわね。

ほほほ、ほほほほほ、
ほほほほほほほほほほほほほほほほほほ・・・・


今日も、宮殿の地下牢の奥からは、
不気味なうなり声に似た音が聞こえてきた。

それが人語だとわかる者は、もう誰もいない。

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黒い寓話 [フィクション]

ひでえことしやがる・・・。

谷間の村に立ち寄った俺は、その惨状に目を覆った。
そこにあるのは、老若男女、死体の山だった。
身体のツヤが失せている。死後相当時間が経っているようだ。

苦悶の表情を浮かべて横たわる死体たちを簡単に検分したが、
目立った外傷はない。

きっと、毒ガスだ。

この世界には、毒ガスをはじめ、罠、毒など、
俺たちを根絶やしにするため、
あらゆる暴力装置が用意されていた。

何のために?

わからない。ただそこにあるのは、
俺たちの生存そのものを否定しようとする、
邪悪にして強大な意思だった。

俺たちは、なす術もなく、強大な意思に抵抗し続けてきた。
ただ、種として生き続けることで。
いつまで続くかわからない、絶望的な抵抗だ。
やれやれ。

そっと十字を切って、谷間の村を後にしようとした。
すると、

突風。

飛びのいた俺が0.5秒前にいた地点には、
明確な殺意を持って、何か巨大なものが振り下ろされていた。

あんなの食らったら、死んじまう・・・。

その後は、息つく暇もない。
俺はただただ走り続けた。
少しでも狙いが逸れるよう、ジグザグに、ときには
後戻りをしながら。だが近くに身を隠せそうな場所はない。
もう、ダメか?

ふと振り向けば、巨大な塊が迫ってくる。
俺は立ち止まって背中に全神経を集中し、
前へ踏み切った。

やった!!!
浮いた!!!

地面が見る見る遠ざかる。

空って、こんなに広かったのか・・・

俺はつかの間の勝利に酔いしれ、力強く羽ばたきながら、
自分の身体に何か霧のようなものがまとわりつくのも
気にならなくなっていた。

苦しい。

やられた。毒ガスだ。身体が痺れてきた。
もうだめだ。

胸いっぱいに毒ガスを吸い込んだ俺はただ、
地面への墜落を待つばかりだった。
何か声のようなものが聞こえるが、わからない。

「びっくりした。まさか飛ぶなんて。
 やっぱりゴ○ジェットもあってよかったわ」

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【フィクション】我が闘争 [フィクション]

私は、日夜闘っている。

差別され続けている者のために。
生存権が奪われている者のために。
日々虐殺されている者のために。

いったい、「彼ら」がなにをしたというのか?
社会の底辺で、ひっそりと暮らしているだけではないか。

「彼ら」は何も奪わない。
「彼ら」は誰も傷つけない。
「彼ら」は誰もだまさない。

こんな無害な者たちを、
我々は嫌悪し、差別し、そしてあまつさえ、
虐殺すらしてきたのだ。

「彼ら」を虐殺するために、
実に多くの武器が考案され、開発されてきた。

我々は、中世の魔女狩り裁判の際に使用された、
各種の拷問器具を見て、身の毛もよだつ思いをする。

それなのに、
「彼ら」をジェノサイドするための武器が、
いとも簡単に手に入る現状には、
誰もが目をふさいでいるままなのだ。

政治も企業もマスコミもみんな、おかしい。

被差別階級を作ることで、
支配階級への批判を抑えられると思っているのか?
「彼ら」を虐殺したところで、
格差社会の歪みはなくならないぞ!

死の商人どもめらが!
儲かりさえすればそれでいいのか?
一部の者を一方的に虐げてみたところで、
不祥事への批判はなくならないのだぞ?

真実を伝えるのが貴様らの役目じゃないのか?
権力や資本に虐げられ虐殺されている者がいるという、
この現状に頬被りして、
軽佻浮薄な特集をねつ造してまで作り上げるのが、
ジャーナリズムだというつもりか?

環境保護団体も、まるであてにならない。
奴らは、金持ちからの寄付が得られそうな、
一般受けしそうな話しか取り上げない。
また、人種差別的偏見に充ち満ちている。
とんだ俗物どもめらが!

とはいえ私は、何度でも抵抗の叫びを上げる。
たとえ一人になっても。

しかし私は、人間の理性を信じている。
私の正しさは、
いつか、歴史が証明してくれるはずだ。

こら、何をする、お前らも虐殺者の手先なのか?

目を覚ませ!
人間らしい心を持っているなら!!

うわっ!!!



僕は、とある化学メーカーに勤務している。
束の間の休憩時間、オフィスの喫煙室。
先輩と二人、だらだらしている夕方。

窓の下を見ると、変な幟を持った人が一人、
入り口付近で警備員ともみ合いになっているのが見えた。

「何でしょうね、あの人・・・」
「うちの会社を、目の敵にしてるらしいぜ」
「何でまた?」

先輩は、煙草の火をもみ消しつつ、吐き捨てるように、

「キ○ガイだよ。単なる」
「どうしてですか?」
「見えるか?あの幟。少し、見えにくいけど・・・」

僕は目をこらしてもう一度彼の方を見た。
彼の掲げた幟には、大きく、こう書いてあった。
 
『ゴキブリ虐殺反対!殺虫剤を作るな!!』

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【フィクション】犬のお散歩 [フィクション]

僕の名前はコロ。ここのお家で飼われている犬だよ。

いつもは、「おばあちゃん」が散歩に連れていってくれるんだけど、
ここしばらく、お散歩は無しで、ちょっぴり退屈・・・

そんなある日、「お父さん」が散歩に連れ出してくれた!

僕は嬉しくて、ついつい走り出しそうとしたら、
リードを引っ張られて止められちゃった。

うっかり!

それから、「お父さん」や「お母さん」が、
毎日散歩に連れていってくれるようになったんだ。

「おばあちゃん」の姿をしばらく見ないのが、少し残念。
あんなに可愛がってくれるのに。どうしたのかな。

でも、僕はお散歩が大好きだから、

「コロ、行くよ」

なんて言われると、もう身体がうずうずしちゃう。

お散歩から帰ると、お腹はペコペコさ。

「おばあちゃん」がいないときは、「お母さん」か「お父さん」が、
ご飯をくれるんだよ。

いつもはコリコリしたドッグフードなんだけど、
最近は結構贅沢で、なんと、毎日骨付き肉!

骨は少し固いけれど、僕の歯ならへっちゃら。
バリバリ食べちゃうモンね。

でも、お腹いっぱいになったら、思うんだ。

それにしても、「おばあちゃん」どこにいったのかなあ・・・
また帰ってきて、一緒にお散歩いってくれないかなあ・・・

ってね。

家の中を見ると、「お父さん」と「お母さん」が何か話している。
僕はまんぷくになって、眠く、なってきた・・ぞ・・・

ふわぁぁぁぁぁ・・・・


・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・

部屋の中、還暦を過ぎたと思しき男女の会話。

「・・・今更かもしれないけど、」

「なんだ?」

「あなたの親孝行ぶり、本当に、尊敬するわ。。。」

「それ以上言うな。。。」

男は頭を抱えうずくまりながらうめく。

「葬式を上げる金なんて、どこにあるんだ?俺だって、、、」

「そりゃそうだけど、よりによってさぁ・・・」

「ああするのがベストだっていうのは、お前のアイデアじゃないか」

女は、どこか虚空を見るともなく見てつぶやく。

「まあね、『おばあちゃん』も本望でしょ」

「そうだな。あんなに可愛がっていた、コロと一緒に、
 生きられるんだからな、たぶん。そうそう、」

「何?」

「後は、刃物の処分だ。そっちはお前に任せるぞ」

「・・・ええ、分かったわ。ところで、」

「ん、なんだ?」

「この分だと明日には、『おばあちゃん』も、完全に
無くなってしまうでしょうね・・・」

「ああ、よく平らげたものだ。コロも、な・・・」

リビングルームには、地の底に沈んでいくかのような、
乾いた男女の声。

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【フィクション】崩壊の予兆 [フィクション]

現場は憂いていた。
最近の本部は、おかしい。

まず、業務の量が等比級数的に増えた。
明らかに不要と考えられる業務も、消化を余儀なくされた。
また本部の指示は不規則で、しばしば急な業務に苛まれた。

また、業務の中身も変わった。
処理が困難なものや、危険を伴う業務が増えたのだ。
特に、劇物の取り扱いには悩まされた。

さらに、過誤に基づく本部の指示さえあった。
業務がないにもかかわらず、作業の指示がくるのだ。

本当に、休む間もない。

それでも現場は粛々と業務の処理にいそしんだ。
ただ、現場の能力にも限界がある。
業務が滞ったり、事故が頻発したりした。
かような現場の状況は、確実に、
組織全体の機能を低下させた。

現場は散発的に本部に陳情を行い、
陳情は徐々に激しさを増していったのだが、
本部の指示が改まることは、なかった。

本部は、おかしい。

現場には少しずつ絶望の気配が漂い始めた。
作業をサボタージュする者も出て、
その徒党は日々増加し、無視できない規模となっていった。

もうこの組織も、長くないかもしれない……



ある日男は、医師の診断を受けた。

男は有能だった。
昇進するたびに付き合いも増え、酒量は増した。
また飲んだ後、深夜に食べるラーメンは、男の大好物だった。

仕事の責任は重く、ストレスを感じることもしばしば。
そのためか、最近、胃が痛くなることがあった。

胃だけでなく、実は体調全般もよくなかった。
男はそれを、自分の年齢のせいだと思っていた。

周囲のすすめもあり、
男は3ヶ月かけてスケジュールを調整し、
ようやく、医師の診断を受けることにしたのだ。

診断結果は、

末期の胃ガンだった。

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